ミニチュアの妻

俺はずっと何かが蘇ってくるのを待ち続けている。思い出や、自分おなかの深いところにある感覚とか過去とか、<新世界軍団>に参加してこのキャプラⅡ号星に戦いに来ることになった後に残してきたかつての人間関係なんかだが、もう長いこと、保っていられる一番古い記憶といえば、一つ前の瞬間の記憶だ。今、自分の中の何かが変わろうとしていて、すべてをしっかりつかめておけそうな気がするときでさえ、実際に記憶をたどれるのは、掩蔽壕への攻撃が始まった時までで、その前のことはひとつも覚えていない。(キャプラⅡ号星での生活ー163)

ハモンドとグラントの身に起きたことは自業自得で、文化人類学者の長い歴史の中には干渉したり「現地人化」して、不都合な、ときには致命的な結果を招くものが綿々といたのだと仄めかす者たちもいれば・・
そうした議論や憶測がさらに三年続いたところで、24歳の元女優にして文化人類学研究者であるデニーズ・ギブソンが、ほぼ単独で、ハモンドとグラントの研究は捏造であり、セバリ族など存在せず、二人の頭の中にしかいなかったことを証明した。
(セバリ族の失踪-170)

どうやら有史以来、人間は男も女も(といってもたいてい男だが)科学的、歴史的、文学的、政治的、数学的なでっちあげに携わり、それによって名声なり悪名なり、金銭なりを得たり、深い信念の支えとしたり、あるいは単に手の込んだ冗談にしようとしてきたようである。(セバリ族の失踪-177)

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「セバリ族というのはね」とデニーズは、秘密めかした、切なげですらある口ぶりで私に言った。「真の意味での原住民だったのよ。まったく手つかずの。千年か、もっと長くにわたって、考えてもみて」と彼女はさらに説明した。「人間の集団がひとつ、ある島に隔離されて、その島は箱の中に入れられて、その箱は外界から千年間も閉ざされていた。いざその島を箱から出してみたら、そこにはハモンドとグラントによるセバリ族がいましたってわけ。そんな部族が実際に存在していたー飢餓や病気や過度の近親交配によって滅び去っていなかったーなんてことが、それを発見したのは大学を出たばかりの無名なアマチュア二人組で、部族の日々の習慣や儀式を微に入り細に入り忠実に記録しておきながら部族の社会構造を乱すこともなかったという事実を、すっかりかすませてしまったの」(セバリ族の失踪-182)

二人は今何をしているのか、どんな新手の詐欺にとりかかっているのか、そして気がつくと、二人がやってのけたこと、意志の力だけで自分たちの新しい人生を作り上げてみせたことにほとんど賞賛の念を抱いている。((セバリ族の失踪-191)

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ミニチュアの妻 (エクス・リブリス) - マヌエル・ゴンザレス, 藤井 光
ミニチュアの妻 (エクス・リブリス) - マヌエル・ゴンザレス, 藤井 光